附中日記 

職員室にいたら、このコーナーの仕掛け人である森先生と山田先生にスカウトしてもらいました。家庭科担当の武藤良子です。

「家庭科っていうと、調理や裁縫だよね。先生、何つくるの?」・・・よく言われます。
しかし、私は言いたい。「ちがーーーう!!家庭科では生活をもっともっといろいろな角度から見つめていくの!!」(もちろん、食生活や衣生活もとても大切ですよ。)
ということで、今回は3年前に行った、「自分らしく生きる」という単元をふり返りながら紹介したいと思います。(森先生・山田先生のお二人と馬場先生の文章の中間ぐらいのかたさをねらってみます。)

さて、質問です。普段の生活の中で、男だから女だからというイメージで分けられたり語られたりすることってありませんか。

―家事は女の人がするとか。女だからと押しつけられるのは絶対に嫌ですね。
―先生たちが叱るときって女子には優しくないですか。ずるいですよ。
―行事の時の受付や接待は女子、力仕事は男子とか。これもイメージですよね。

そうですね。性別とか男らしさ・女らしさというイメージで分けられていること、本当にその区別が必要なのかということ、考えてみるといろいろありますよね。
でも、セクシャリティ(性のあり方)って、本当は人の数だけあるんですよ。からだの性(生物学的な性別)、こころの性(自分が認識する性別)、好きになる性(自分が惹かれる性別)と表現したい性(見た目や立ち振る舞い)で考えることができます。

―なるほど。いくつもの要素の組み合わせで考えるんですね。
―それに、心の性を一つとっても、女性よりかなとか、さばさばしているからそんなに女性っぽくはないかもしれないなとか、どう位置づけるかということも個人によって変わりますよね。
―だから自分と同じセクシャリティの人は一人もいないんですね。

でも、生活の中には、イメージとして根づいている男性・女性の2択で考えられていることが多いんですよ。セクシャルマイノリティ(性的少数者)って、聞いたことありせんか。社会的には、体の性と心の性が一致している人、好きになる性が異性という人がマジョリティ(多数)とされ、これにあてはまらない人はセクシャルマイノリティと区別されています。LGBTという言い方の方が知っているという人は多いかもしれないね。(L:レズビアン、G:ゲイ、B:バイセクシャル、T:トランスジェンダーのことをさします。セクシャルマイノリティはこの4つだけではありませんが、広い意味では、セクシャルマイノリティを包括してLGBTと表すこともあります。家研に本がたくさんあるので、ぜひ見に来てくださいね。)

―テレビで、渋谷では同性でのパートナーシップが認められたというニュースを見たことがあるよ。でも、申請も手間や時間がかかるうえに結婚と同じだけの権利は認められないみたい。生活者としての権利は誰にでも平等に与えられるべきだよね。
―それに、同性どうしで里親として子どもを育てることが認められたみたいだよ。お父さんとお母さんだけじゃない家族のあり方が広がりつつあるんだね。
―でもさ、正直なところ、家族や友達にセクシャルマイノリティだって言われたら、受け入れられるのか、これまでと同じ関係でいられるのかわからないよ。

こうして、人々に根づいている意識と、生活を支える社会の仕組みの両面から追究をしていきました。附中にNPO法人ASTAのかたに来ていただいて、当事者の人やその家族や友達であるという人と交流をしたり、セクシャルマイノリティの関わる活動をしている弁護士や政治家の人、大学の先生に取材をしたりしました。街頭調査を行った子もいました。

以下、先輩達の単元まとめ(追究をふり返って考えたことを記したもの)です。

◆社会的にこの課題を解決していくためには啓発活動が必要だが、それがすべての当事者の人の生活をよくするとは限らない。でも自分の身の周りでは、互いに多様性を認め合って誰もが自分らしく生きられるように、一人一人の内面を大切にして関わり、人とのつながりを広げたい。
◆すべての人が男らしさや女らしさという2つの枠に収まるなんて言うことはあり得ないときづくことができた。LGBTの人だけをひとくくりにして考えることもおかしい。自分自身も含めてみんなマジョリティでみんなマイノリティで当事者だ。
◆自分も友達も、その家族もそれぞれの生き方がある。でもその違いこそ違いではない。セクシャリティが人によって異なるのは自然なことだ。大切なのは、その人が何を思い、どう考えているかだ。枠にはめて考えず、違いを楽しめるような生活をしていきたいと思う。

休校中に、この追究をしていた高校3年生になる子とメールしていたのですが、その子からの返信の中にぜひ附中生に伝えたいなと思う言葉がありました。

「・・・(略)『LGBT』にしぼっていくのか、広く『多様性』にシフトすべきかなど、自分なりにこれからやりたいことを見つめていますが、迷ってもいます。取材とかも、今は、附中みたいな環境ではないので簡単にはいかないですし。附中もこの状況で大変だと思いますが、やっぱり後輩には、未熟だったり、考えているうちにテーマとずれてしまったりしても、附中以上にいろいろやれる場所はそうそうないので、全力でやって!と、コロナ渦の中、強く思います。」

登校が再開したら、授業の中でも気をつけていかなければいけないことはたくさんあると思います。ですが、先輩の言葉にあるように、自分から求めていけば、可能性はいくらでも広がっていくはずです。附中ならではの追究を思いっきり楽しんでいきましょうね。

今回のお相手は、武藤良子でした。ありがとうございました。