「附中追究単元探訪」その3
第3回目の案内人は、保健体育科を担当する馬場健介です。前に紹介してくれた二人よりは、ちょっとかためにいきます。よろしくお願いします。
附中の保健体育科の授業は、(どの教科かもそうかもしれませんが)公立の学校では出会わない種目と接する機会が多くあります。卒業生の中には、こんなことをいう人もいます。「高校に行くと、これまでやったことのないバスケットボールやサッカーをやるのですが、うまい人ばかり活躍してしまう。全員で楽しめる附中の体育が懐かしい」と。もちろん、一般的に目にするスポーツを教材として行わないわけではありませんが、附中では、誰もがスポーツの中にある魅力を感じることができるような追究の授業を行っています。その中から、今回は「集団行動」の実践を紹介したいと思います。日本体育大学の集団行動をベースに実践を行いました。
単元の始まりは、日本体育大学出身で集団行動のリーターを行っていた駿河台大学(埼玉県)の先生に来ていただき、一緒に集団行動遊びをしました。今のご時世、「気をつけ」「前へならえ」「なおれ」腰を下ろして休め」などをひらたすら訓練する学校はあまりありませんよね。でも、大切な要素も多くあるものなので、全員で動きをそろえることの楽しさを味わうことができるように、表現運動をやる感覚でスタートしました。みなさんも日体大の集団行動は、テレビやユーチューブで見たことがあるかもしれませんね。(集団と集団がクロスする技など)プロが入ると、集団と集団が行進しながらクロスする技も実はコツがあり、一発でやれてしまいました。
技を組合せ、簡単な演技を一通りやってみた後、その集団行動を育朋館の2階から撮影したビデオをクラスで視聴し、技が決まっていくたびに「すごい」「かっこいい」という声が上がりました。そして、「もっとかっこいい集団行動をつくってみたい」「私たちオリジナルの集団行動をつくって、いろんな人に見せたい」という気持ちが大きくなり、追究がスタートしました。
まず最初に、一人一人がどんな技をやってみたいか考えるところから始めました。ここが附中生の魅力的なところ。映像を見て下調べしてくるだけでなく、完全オリジナルで考えた技を多くの人が提示し、あまり思いつかないような技がたくさん生まれてきました。円形になって行進する。列がクロスした後、そのまま後ろに行進してクロスする。どんどんマニアックな動きが出てきて、「ハートキャッチプリキュア」とか「四角形隊列変換」などと名称をつけ、私から見ても「これは複雑すぎてできるのか?」なんて思ったりしながら、クラスの活動を見ていたことを憶えています。
次に小グループ(確か6~7人)をつくり、一人一人が考えた技を試していきました。中には複雑すぎて実現できないものもありましたが、一人一人の考えを大切にしながら、検証を重ねていきました。グループで技の見栄えをよくしていくために案をアレンジし、創ってきた演技をお互いに見合いました。
小グループでの中間発表後、クラスを二つの集団(20人ずつ)に分け、クラスの演技につなげていく技を練習し、提案していくステップに入りました。この段階まで来ると、同じクラスの仲間なのに、雰囲気はバチバチ!「私たちの演技を採用してやった方よい」「相手チームのステップよりも、私たちが考えたステップの方がキレが出てよい」とお互いが譲らず、時間をかけて演技を見合ったり、改善案を話し合ったりしました。途中、喧嘩に近い状態もありましたが、それだけ全員で「かっこいい演技をつくりたい」という思いをもっていたのだと思います。「行進の足音はさせない」「ひじの高さはここ」「視線は2階」というところまでこだわって、演技を創り上げていく姿がありました。いつの間にか、「自分のチームの方が難しく、見栄えのよい技を創る」という思いが消え、「シンプルな動きを徹底してそろえ、クラス全員で創りたい」という気持ちが大きくなっていきました。
また、最初はそろわないこと原因を号令者の責任にする雰囲気がありましたが、こちらも「号令がなくても、一人一人が号令者になって、指示が間違っていても自立して動けるようにしておかなくてはならない」という意識も生まれました。これは、後の学級の雰囲気がよくなっていくことにもつながっていきました。
クラスの演技が完成しました。最後は練習に練習を重ね、50分授業ずっと反復をするクラスの姿がありました。学年発表会、また、保護者を招き、熱い育朋館で演技を見せた後のクラスの仲間の表情は、今でもとても印象に残っています(もしその集団行動の映像が見たかったら馬場まで言ってください)。
熱い中、汗びっしょりになって演技を見せたクラスメイトのすがすがしい顔がありました。
附中の授業は、自分たちでつくりあげる、深めていく、という魅力があります。先生主導でやるよりも時間はかかるかもしれません。でも、プライドをもって目標を達成するまで自分たちの力でやりきる姿勢が人を育てることをみなさんの先輩から学ばせてもらった気がします。「あのとき集団行動楽しかったよね」と、卒業後に授業のことが話題となる学校は、それほどないと思います。ぜひ、一年生のみなさん、この附中の追究授業にどっぷりとつかり、その魅力を味わってくださいね。
以上、今回のお相手は、馬場健介でした